「2月」“440 presents uchuu in the four forty”の仲間たち。今、この時、この季節を思いのまま綴ってくれます。

もうすぐバレンタイン。
街を歩いていると、バレンタインに向けた贈り物用のチョコレート、新作のチョコレートドリンクやら、チョコ菓子やらが並んでいました。一日3食スイーツでもうれしいくらいの甘党で、チョコレートがだいすきなわたしからすると、この時期の街はとってもときめく季節です。 いま、わたしは、敬愛する作家の森茉莉が通った邪宗門という喫茶店の、彼女がいつも座っていた席でこちらのコラムを書いています。

『贅沢というのは高価なものを持っていることではなくて、贅沢な精神を持っていることである。容れものの着物や車より、中身の人間が贅沢でなくては駄目である。』（ほんものの贅沢-森茉莉）
わたしは、毎日のくらしのなかで、じぶんを大切にするために、この言葉をいつも胸の中にだいじに留めています。
この椅子に座って、制作をすること、茉莉さんが飲んだお紅茶をいただくこと、わたしにとっての贅沢は沢山あるけれど、いつもの暮らしのなかで、わたしの心をたっぷり贅沢にしてくれるもの、がチョコレートです。
『生命を保持するための、人生に欠かせない嗜好品』としていくつかの作品挙げている程、チョコレートがお好きであった茉莉さん。
先程お店からサービスでいただいたチョコレートとオレンジピールを齧りながら、茉莉さんのように、わたしがずっと忘れられない『チョコレエト』のお話をしたいと思います。

わたしが幼いころ、実家で外国の方のホームステイのて受け入れをしており、オーストリアから来られたご婦人とそのお嬢さんが滞在していた時期がありました。
あまり普段目にしない、ヨーロッパの出身の方の素敵な容姿や、歌のようにも聞こえる異国の言語は、当時のわたしにとって、絵本の登場人物のようでした。彼女達は、わたしたちにオーストリアからのお土産を持ってきてくれました。ウィーンフィルのCDや、陶器の天使の置物など、どれも素敵なプレゼントだったけれど、わたしが一番ときめいたものは、かわいくラッピングされたチョコレートでした。
綺麗な包装の六角形箱の中に、モーツァルトの肖像が描かれている緑色と金色の銀紙で包まれた丸いチョコレート。
ぴりぴりと銀紙をはがして、半分齧ると、いつも食べている明治の硬い板チョコとは違い、ふにゃりと柔らかくて、真ん中には不思議な味の、緑色のクリームが入っていて、舌でころがすとすぐにとろけていくような、なんだか本当に映画や絵本で見るファンタジーの世界の食べもののようで。
幼いわたしにとってはじめての、ちょっぴり大人の味のする外国のチョコレートにとっても胸が高鳴ったのを覚えています。その時からわたしにとってチョコレートはとくべつな食べ物になりました。
（あとから母親が、あれはオーストリアの代表的なおみやげで、モーツァルトクーゲルというチョコレートなのだと教えてくれました。有名なものだそうなのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。）
それから十数年、まだあのチョコレートをお店でお目にかかったことが無いので、日本では売っていないのかもしれません。ネットで検索して購入することも出来るかもしれないけれど、いつか偶然どこかであのチョコレートにめぐり会えたら素敵かしら、なんて思っています。（でも見付けたらどなたか教えてください、笑）
わたしの忘れられないチョコレートのおはなしでした。
チョコレートは、あまくて、すこしほろ苦くて、とろとろとろける、とっても贅沢なものなのに、お手軽で、ふつうの毎日をちょっぴりロマンチックにしてくれるもの、な気がします。わたしも茉莉さんのように、どんなに忙しくても、お金がなくても、『贅沢貧乏』の精神で、こころは贅沢に、チョコレートにときめくわたしをたいせつにいたいです。
でも今年はちょっとだけ良いチョコレート買っちゃおうかな。

PHOEBE

2000年生まれ。広島県出身。
幼少期から合唱団で讃美歌などの宗教音楽に触れ、歌唱を学ぶ。17歳の頃、ラジオでナンバーガールを知り、バンド活動をはじめる。
2023年5月、德富美月によるソロプロジェクト“PHOEBE”として活動を開始。
歌とギターをたずさえてのソロ編成、サポートメンバーを入れたアコースティックユニット編成や、バンド編成など、様々な形態で東京都を拠点に活動中。

https://www.instagram.com/tomiiiii_PHB
https://twitter.com/tomiiiii_PHB