「4月」“440 presents uchuu in the four forty”の仲間たち。今、この時、この季節を思いのまま綴ってくれます。

2014年4月1日。
生まれた街で育ち親元を離れたことのない若造が東京の街に出てきました。チャットモンチーが歌ってた、夢が夢でなくなる東京へ。
何事も形から入りたい節がある私は、4月1日にこだわって上京しました。年度の初めの日だからです。今思うと、引越しの閑散期を狙うとか、もう少し上手いやり方があったんじゃないかと思ってしまいますね。いつ上京したのか聞かれた時には答えやすいので、結果オーライってことにしておきます。

きっかけとしては、進学や就職で上京する人が多いのかなと思います。あるいは、何か挑戦したいことや叶えたいことがあり一念発起して、という人も少なくないのかもしれません。私の場合は後者でした。
「東京でバンドやろうぜ！」と誘われ、面白そうだったので仕事を辞めて無職で上京することを決め、今に至ります。
音楽仲間と盃を交わしながら朝まで熱い話をしたり、平日の真っ昼間の公園でフリスビーをしたり、無職の期間はそう長くはなかったですが、人生の夏休みのような時間で楽しかったです。
その当時、私が生活の拠点に選んだのは東京で最も長い商店街のある街の安アパートでした。
なぜその家に住むことになったのか。前置きが長くなりましたが、今回は家探しにまつまる話をしたいと思います。

当初、上京することについては両親から反対され揉めていたので、諸々決着する前にひとりで家探しを始めてあわよくば契約までしてしまおうと試みたことがありました。
世田谷の桜新町あたりの物件を借りようと不動産屋さんを訪ねたのですが、
「上京されるんですね。進学ですか？就職ですか？」
「いえ、音楽やりたくって。仕事を辞めてこれから上京するために住む家を探しています。」
嘘をついてもどうせどこかでボロが出るだろうと思ったので、このような馬鹿正直なやり取りをすることとなりました。
無論、これから無職になる人間に家を貸してくれるほど世の中は甘くなく、最終的には両親に納得してもらった上で協力してもらい、再度家探しをすることとなりました。

「とにかく家賃が安いところ、お願いします。」
二度目の家探しの際、不動産屋さんにそう伝えると、
「初めての一人暮らしにはどうかと思いますけど…。」
担当のお兄さんが苦笑いしながら、セキュリティ概念なし、風呂なし、トイレ共用の近辺で最も安い物件を案内してくれました。
しかし、同行していた母親に即却下されてしまったため、折衷案として最低限の住宅設備として3点ユニットが部屋にある最安物件へと条件を変更して、たどり着いたのが最初の生活拠点となる木造築50年の安アパートでした。
(3点ユニット＝バストイレ洗面が同じ空間にセットになったもので比較的家賃が抑えられる利点があります)

生活水準は、一度上げてしまうとなかなか下げることが難しいと言われているので単純に上げるのが怖いということと、あとはなんとなく便利すぎない方がいいのではないかという気もしていて。少し不便なところもあるような生活の方がいいような気がしたのです。
便利すぎるといろいろなことが当たり前になってしまって、大切なことを忘れてしまいそうだから。私はそれが怖いのだと思います。
最初の街は3年ほどで引越しましたが、相変わらず今も別の街の安アパートに住んでいて、この文章を書いています。
もしも私が、もっとお金を稼げるようになったとしても同じような生活をしているのではないかと思います。一度くらいはお洒落なマンションとか住んでみたいですけどね。

以上、私の上京にまつわるエピソード・家探し編でした。
東京って、目を凝らせば星は見えるし、人との距離は近からず遠からずで、でもあたたかい。考え方がたくさんあって、柔軟なのにちゃんと芯があって、面白いところだと思います。
少なくとも、生まれ育った街を飛び出してきて良かったなと思える何かがここにはあると、私はそう感じています。
この街で出会って、側にいてくれるみんなの存在がその何よりの証明です。

写真は少し前のものなのですが、私が生まれ育った街、日立市の『平和通り』の桜です。(撮影：父)
日立駅前から国道6号線まで1kmほど、100本以上のソメイヨシノが植えられた桜のトンネルです。日本のさくら名所100選にも選ばれていてとても美しいのです。

笹平綾佳

2014年春上京。バイバイコヨーテ、Utopia Leagueに参加。しばらくはバンドを中心に音楽活動を行う。 バンド脱退後2019年より、本格的にソロでの音楽活動を開始する。

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