2021.10.03 空白ごっこ「全下北沢ツアー~OKAWARI 2DAYS~」LIVE REPORT

空白ごっこが「全下北沢ツアー~OKAWARI 2DAYS~」を10月2、3日に開催した。7月から9月に行われたライブツアー「全下北沢ツアー」の追加公演となる本公演。2日目、最終公演はポップしなないでとともに下北沢CLUB251を彩った。

PHOTO:大川茉莉

「素敵な空間だね。今日は楽しんでいってください」

拍手に包まれ登場したポップしなないでが1曲目に選んだのは「tempura」。一曲目から弾むボーカルにオーディエンスが身体を揺らす。喋るように抑揚を操るかめがいあやこのボーカルが楽曲のリズムと絡んだ。間髪入れずに続いた「救われ升」ではさらにオーディエンスを盛り上げていく。屈託のない声色が楽曲の明るさを最大限に引き出し、畳みかけるような歌詞をドラムが引っ張っていく。メロディアスなキーボード、まくしたてるような歌い方で楽曲に表情をつけるボーカル、そして楽曲の構成を担うメリハリのあるドラム。小規模の編成だからこそひとつひとつの音の自由度が大きい。縦横無尽な音の波が一つの音楽として奏でられるのが心地よかった。

「素敵な空間だね。今日は楽しんでいってください」と挨拶を挟むと、「魔法使いのマキちゃん」で浮遊感を生みだす。繰り返しの多い楽曲だが、そのたびにボーカルにこもる感情が異なっていて、その表現のカラフルさに驚かされる。

ピアノとボーカル、ドラムのみでの編成であるからこそ、2人が目指す表現のシンクロには目を瞠るものがある。語尾のタメや跳ね方がかめがいの歌の特徴だが、声色が多岐にわたることも特筆すべき点だろう。可愛らしい声で歌い始めたフレーズを歌い終わることには太く陰のある表情を纏っていることもある。抑揚もしかりで、我々が喋るときに意識せずとも声を大小させるように、あるいは感情が昂って声の大きさに反映されるようにして彼女のボーカルには抑揚がつけられる。それがかめがい自身が奏でるピアノの抑揚ともリンクすることによって、さらに迫力を生みだしている。かわむらのドラムも呼応するように表現の幅が広い。決して特別手数が多いわけではないが、ここぞというときの16分ハイハットやフィルでの展開の規模感はボーカルの持つダイナミックさをそのまま音楽に乗せる役割を果たしているだろう。

「Creation」「クラヤミライダー」と続けた2人はこの日の主役である空白ごっこに感謝を述べると、ボーカル力が炸裂する「支離滅裂に愛し愛されようじゃないか」へ続ける。

「SG」では比較的しっとりした曲調にドラムが重量感を足していく。〈こんなことをやってる暇はないと自分に嘘をついて〉の歌詞とボーカルの噛みしめるような歌声がずしりと力を持つ。怒涛のラスサビに向かうキーボードとドラムの音の波で圧倒した。

「夏の曲をやります」という前置きののち演奏されたラストナンバーは「夢見る熱帯夜」。軽やかなキーボードとハイハットにボーカルがキュートな声色でリズミカルに彩っていく。軽快に演奏を終えた2人の、しかし終始迫力に溢れたステージ。短くも暑い熱帯夜のようで、続く主役へと余韻を残した。


生活に寄り添うようなやさしさと一抹の切なさ

「始めまして、空白ごっこです」と短く挨拶をすると「リルビィ」へ。ギターの印象的なリフに身体を揺らす。バンドの音に囲まれ中心に立つセツコは独特な存在感がある。淡々と歌っていた序盤だったが、サビになると前に手を伸ばし、オーディエンスとの意思疎通を試みているようだったのが切実に写った。

続く「だぶんにんげん」も例に漏れないが、空白ごっこのMVはイラストが使用されたミュージックビデオなど、印象に残るMVが多い。メンバーにボカロPがいるように、インターネット上で発展してきた音楽の影響が色濃い空白ごっこ。だが、ライブで演奏されることによって楽曲のイメージはかなり異なる。セツコのクールな佇まいが歪んだギターやずっしりとしたドラムと混ざり合うことによって生まれるミステリアスな迫力は、MVだけでは感じることができない。同じくMVでリスナーを魅了している「ピカロ」ではセツコ自身も身体を揺らしながら手を挙げた。

PHOTO:SEINA

「お越しいただいてありがとうございます」と少し慣れない様子で口を開く。「またすぐ会えちゃったね」とクスッと笑う姿に彼女本来の茶目っ気を感じた。対バン相手であるポップしなないでの楽曲を特別な友人に重ね「生活の空間に存在する音」と表現したセツコ。彼女と音楽の心理的な近さを言い表しているようだ。内省的な歌詞も少なくない空白ごっこの楽曲だが、必要以上にネガティブであったり攻撃的なわけではない。生活で揺れ動く感情の一部を楽曲にしたものが彼女の歌う音楽なのかもしれないと思わせるMCだった。

激しいバンドサウンドにクールなボーカルで構成されていた序盤とは雰囲気を変えた「19」「雨」以降、楽曲によって引き出されるセツコの表情もがらりと変化したように思う。ライブ序盤、苦しさや孤独を強調しているように聴こえたブレスの音は切なげで、時々使われるファルセットのように透明感を足しているようにも感じられる。

「ポップしなないでさんも夏の曲をやっていたけど、夏の曲ってどの季節に聴いても沁みるものがあると思うんです」と話すと「なつ」を披露。もがくような歌詞は鮮やかな夏の爽快さというよりもじわりとした暑さを連想させる。太陽の熱を帯びた砂浜に足が埋まって思うように歩けないようなもどかしさが過ぎ去ったばかりの夏を懐かしく呼び起こした。

「はじめての物語調のMVなんです」との言葉とともに披露されたのは新曲「プレイボタン」。生活に寄り添うようなやさしさと一抹の切なさを備えた声色で魅了した。

シンセサイザーとベースがシンクロしたイントロのフレーズで楽しそうに身体を揺らし、オーディエンスと共に手を振りながら歌ったのは「キザな要素が足りない」。「最後の曲になります!」と叫ぶと「ハウる」へと続く。EDM調の楽曲にバンドメンバーも身体を揺らし、セツコもメンバーと時折顔を見合わせながら歌う。バンドサウンドで圧倒したステージを最後にダンスフロアに変えた。

PHOTO:大川茉莉

アンコールで再び登場すると、この日何度目かの「来てくれてありがとうございます」と感謝を述べる。序盤の冷静な佇まいからは想像できないようなパワー感で「リスクマネジメント」「ストロボ」を連続して披露。比較的短い楽曲に熱量を凝縮した熱さに圧倒される。「ありがとうございました!また会いましょう!」とやりきったように全下北沢ツアーに終止符を打ち、近いうちの再開を誓った空白ごっこ。バンド紹介をしたのち「じゃ、解散!」と言って清々しく終えるその姿は、下北沢で全12公演をやりきった達成感が感じられるとともに、次のステージに心躍らせているようにも見えた。

<written by 村上麗奈>


空白ごっこ「全下北沢ツアー ~OKAWARI 2DAYS~」

会場:東京・下北沢CLUB251

10月2日(土) 出演:空白ごっこ/Guest:cadode

10月3日(日) 出演:空白ごっこ/Guest:ポップしなないで


■ポップしなないでオフィシャルサイト:https://popsnnide.tumblr.com/

■ポップしなないでオフィシャルTwitter:https://twitter.com/pop_snnid


■空白ごっこオフィシャルサイト:https://www.kuhakugokko.com/

■空白ごっこオフィシャルTwitter:https://twitter.com/kuhaku_gokko


【SHIMOKITA OUTGOING】Twitterフォローお願いします!