wash? 『Noise』リリース記念インタビュー完全版

──今回は、同い年で飲み仲間でもある奥村くんと河崎くんのバンド・wash?が結成20周年を迎え、前作『sweet』以来となる5年ぶりのニューアルバム『Noise』を完成させたということで、根掘り葉掘りいろんな話を聞いていきたいと思います。オダさんとお話しするのは初めてですけど、よろしくお願いします。
オダ:よろしくお願いします。


──まず、アルバムを聴かせてもらって、めちゃくちゃ素晴らしい1枚だなと思いました。傑作ですね。
奥村:それはもう、素直にうれしい!


──前作から5年ぶりのアルバムになったのは、自分たちの状況だけじゃなくて、コロナ禍など世の中の影響も大きい?
奥村:正直、あるね。大きいと思う。厳密には2022年が20周年で、15周年のときに20周年にも何かやろうという話はしてたの。メジャーレーベルとワンショットで契約して、まさかのメジャーデビューっていうプランもあったりしたんだけどね。でも、ドラムが辞めちゃったり、急にコロナ禍が始まったりして。
河崎:そんな中で唯一の明るい材料だったのが、オダが入ってきてくれたこと。コロナ禍前だったけど、バンドとしていろいろ大変な時期に入ってくれたから。
奥村:サポートメンバーだったらいろんなツテもあるけど、正式メンバーを探すのは大変なんだよね。でも、バンドがずっとサポートメンバーで活動するのはちょっと違うという考え方が、個人的にはあって。
河崎:サポートメンバーだと、本気で文句も言えないしね(笑)。
奥村:あと、サポートメンバーじゃなくて正式メンバーだと、そのメンバーが上手かろうが下手だろうが、それがそのバンドのアンサンブルだし、個性になるからさ。それがいびつだとしても、むしろいびつなものが俺は聴きたいし、ライブで見たいのよね。俺には、そういうものに興奮してしまう性癖みたいなものがあって(笑)。だから、入れるなら正式メンバーがいいなって思ってた。そしたら、ラッキーなことにオダが入ってくれたから。飲み仲間でもあったし、オダがやってたHi-5も好きだったし。とはいえ、正式メンバーとして加入するのがお互いにとってベストの選択なのかという問題もあるから、最初はお試し期間を設けましょうという話になって。
オダ:wash?ではいろいろできそうだなって思ったんですけど、今までやってこなかったことに踏み込んだことで、自分がもともと持っているものが壊れたり、全部がなくなっちゃったら嫌だなと思って、最初は予防線を張ってたんです。でも、やってみたら見えてくる先がどんどん楽しくなっていったんで、これはもう正式メンバーとしてやったほうがいいなって。
奥村:オダが、「もう気持ち悪いんで、正式に入っていいですか?」って(笑)。それは、すごく覚えてる。お試し期間は半年から1年のつもりだったけど、もう2、3ヶ月で。
オダ:どっか気を使ってもらったり、そういうのがちょっと気持ち悪いなと思い始めて(笑)。
河崎:めっちゃうれしかったよね。ちゃんとつきあってくださいって告白して、つきあいますって言ってくれて、そっからつきあってみるとさ、やっぱりさらに本気になるわけよ。そっからこの3人の塊をどうしていくかってなったときに、自分に足りない部分もわかったし、オダに対してもっとこうしてほしいというところも出てきたし。そこから1年ぐらい経って、すげーわかりあえたというか、もう前のwash?より絶対いいだろうなとは思えるようになった。

──そして、『Noise』がこの3人での初アルバムになった。
奥村:そうそうそう。
河崎:この3人でのデビューアルバム、ファーストアルバムだよね。
奥村:でも、正直さー、コロナ禍でふてくされてる時期も長かった。ライブをやっていいのかいけないのか、どういう在り方、やり方、伝え方があるかって、そういう日々に追われて。そんな時期に、河崎が「次、出すならアナログレコードじゃね?」って言ったんだよね。昔から、飲んで河崎とよく言ってたのが、お互いにアナログを出すのが夢だってこと。それはこのタイミングじゃないかって。そこから、新作をレコードで出すというモチベーションが生まれて、やっとレコーディングに向けて積み上げていくこと、超えなきゃいけない階段が見えてきた。
河崎:CDをリリースするときも、10曲なら最初の5曲がA面で、後半の5曲がB面でって考えるオールドスクールなタイプだから。それで、頭のどっかにアナログ盤に対しての夢や憧れが常にあった。でも、CDに比べたら3倍も4倍も予算がかかる。だけど、いつまでバンドができるかわかんないし、夢を叶えるなら今しかないって。そう思ったのは、コロナ禍の影響もあったのかもしれない。やりたいことをやっとかないと、死んじゃう可能性もあるなって。
奥村:それは、マジであるね。

──奥村くんと河崎くんは、コロナ禍の時期に50代になったじゃないですか。それも大きい?
奥村:でかい。やっぱね、人生を折りたたんだときに、その折り目よりももう向こう側に来てんだよ。wash?の結成40周年をやれたとして、70歳だよ。70歳で今と同じような曲を作って、同じように転げ回って、ドラムから飛び降りたり、客席でギターを振り回したり、絶対できない。てことはたぶん、ある一定の肉体的行為と精神的充実がクロスする、最後の時期にいるんじゃないかなって思いはある。だとしたら、ここは夢を叶えるタイミングなんじゃないかなって思ったんだよね。


──その結果、『Noise』という名盤が誕生して。曲を追うごとに、夜が明けていく感じ、何かが開けていく感じがすごくしました。聴き進むうちに気持ちがぐっと上を向いていくし、心が解放されていくというか。
奥村:まずは、コロナ禍の世界になって、自分の中の一喜一憂に絡め取られちゃったの。それで、作品のためにどうしていくかっていう作家性というよりは、日常に追われるバンドマンになったわけよ。だから、結果的にはこれまで以上に日記みたいだなと思ってる。俺は歌詞も書いてるから、歌詞のことも含めてになっちゃうんだけどね。音に関して言うと、オダがドラムになって再確認したフィールは、ロックってダンスミュージックだよねっていう、自分の中にある強い思い。昔の大学のダンスパーティーはさ、軽音楽部が学食にステージを作って、T・レックスとかのロックを40分とかつないで演奏して、ダンスパーティーにしていくみたいなことをやってたのよ。あれは貴重な原体験で、演奏をつないでフロアを我に返さないって感じ。このビートがずっと続いてくれたらいいのにって、踊り続けられる感覚。そんなふうに踊れる音楽でありたいっていうか、それはいわゆるダンスミュージックでありたいだけじゃなくて、ロックって踊れる音楽だよねってことは、すごく強く意識したかな。
河崎:3作前ぐらいから、“開いたもの”っていうのは大ちゃんともたまに話してて。とにかく閉じてないものが、どんどんできるようになってきた感覚もあるんだけど、今回はもっともっと開けないかなっていう。コロナもあって閉塞感もある中で、やっぱりもっと、とことん開いたものにしたいなって気持ちもあったし、今回はそれができたなって気持ちもある。そこは、これからもずっとやっていきたいかな。
オダ:このキャリアのバンドがこんなにチャレンジするんだって、最初は思いました。でも、これはチャレンジじゃなくて、2人がずっとやりたかったことなんだろうなって。そのためのいい触媒になれて良かったですね。

──アルバムタイトルを『Noise』に決めた理由は?
奥村:最後の最後に決めたんだけど、当初はセルフタイトルにしようかっていう話もあった。あとは、物販で人気の「FUZZ」Tシャツから取って、『FUZZ』ってタイトルにしようかって案もあったり。でも、「noise」っていい曲だなって思ったし、この3人の良さが特によく出ているなと思ったから、「noise」をアルバムの1曲目にしてアルバムのタイトルを『Noise』にしたっていう。

──ジャケットもインパクトがあって印象的です。
奥村:タカサキ・ショウヘイっていう、『HOWLING』からずっとwash?のジャケットをやってもらってる絵描きの作品。もともと「GAN-BAN/岩盤」のスタッフだったんだけど、『HOWLING』をリリースする前に知り合って、絵を見せてもらったときから一緒に何かやりたいなと思ってたの。そこからwash?のライブに来てくれて、めっちゃ気に入ってもらって。でも、今はオーストラリアに住んでるから、海外とのやりとりは時差もあるから大変だし、じゃあ『noise』のジャケットをどうしようかって話になったときに、彼が日本で個展をやったんだよね。それがめっちゃ良くて、その個展で俺が一番気に入った作品がジャケットになってる。奥さんもこの絵を描いてからショウヘイはまたいい方向に変わったって話してたし、『Noise』を聴かせたらショウヘイも『これがいいと思います』って。

──肉体と精神がクロスする最後の時期かもしれないという話があったけど、アルバムを聴くとまだまだ続けていくという魂も感じました。
奥村:バンドを続けるという意志は、意志ですらないというか、当然なの。そのときに周りに人がいるかなってことだけで、それはもちろんメンバーもそうだし、協力してくれるスタッフ、あとはお客さん。それが、自分のモチベーションになる。曲が書けなくなるとか、歌詞が書けなくなるっていうのは、今のところはなくてさ。先輩ミュージシャンからは、だんだん歌詞が書けなくなるって話をよく聞くけど。


──歌詞が書けなくなるって、どういうことなんだろう?
奥村:人が人生で言葉や音にしなきゃどうしようもなくなる、すごい感情の変化って、きっとそんなに多くないんだよ。多くて、たぶん4つか5つだと思う。俺は、その中から1つの感情でも角度を変えるとか、視点を変えるとか、時間軸を変える、その感情を見てる人を変えて作詞してる。そういうことが、俺は楽しいの。俺のことを振った女の子の気持ちで妄想したりすると、歌詞が出てくる(笑)。だから、歌詞が書けないってことはないし、実際ケータイには歌詞のかけらがたくさん入ってる。


──そんな奥村くんの歌詞を、2人はどう感じていますか?
オダ:生っぽいし、むき身ですよね。全然飾らない感じがして、こっちも気張らずに付き合える歌詞だと思います。
河崎:大ちゃんの歌詞はね、もう信用してるんで、あんまり深入りしないようにしてるかな。もういいに決まってるし、あんまり関与してない(笑)。
奥村:迷ったら、相談するけどね。
河崎:そうだね。でも、途中から加入したけどもう10年一緒にやってる俺が、「大ちゃんの歌詞のここが好きでさー」とかは気持ち悪いじゃん(笑)。
奥村:でも、wash?は俺1人の名刺じゃなくて、この3人の名刺だから。歌詞に関しても、この2人がいて、この2人との関係性の中で俺の人格がいろいろ変わったりしてきているから、それを踏まえた歌詞を書くことって、この2人も作詞に参加していることと実は同じ意味だと思うの。それが、バンドとしてフェアな作詞なんじゃないかなと思ってる。逆にwash?では歌わねーかって思ってるのは、聴く人をどん底に落としたり、後ろから蹴っ飛ばしたり、ぶん殴るような歌詞。負の感情の爆発も俺だし、そういう歌詞を書きたい衝動が起こることもあるんだけど、それは俺が弾き語りでやればいいかなって。負の姿を河崎やオダに普段から見せているなら、それを歌詞にしてもいいんだろうけど、そうじゃないし。

──メンバーとの関係性で、wash?というバンド自体が変化してきている?
奥村:そういう感覚が強いし、そうやって変わるのが当たり前だなと思ってる。音の部分で今やってる感覚は、ダンスミュージックをフォークギターをベースにした作曲でやってるみたいな。そういう音楽をやるには、すごくいいメンバーなんだよね。本当に今、いろんなものがいい方向に進んでる。若い頃はみんなそうなんだと思うけど、俺も前は自分の中から自然に出てきた曲を、そこからどうニルヴァーナに近づけるかとか、どうやったらアレンジでエイドリアン・シャーウッドの匂いを出すかとかさ、そんなことばっか考えてたんだけど。でも今は、もう不安なく俺ら3人が音を出せば、それでwash?になるからっていう。だから、今は昔よりも生まれた曲に対して余計な味付けをしてない。


──そういう意味でも、今回の『Noise』はファーストアルバムのようなものなのかも。
奥村:そうだね。今、腑に落ちた(笑)。


──そんなファーストアルバムのような『Noise』が、結成20周年を記念する作品でもあって。
河崎:正直に言うと、20周年だなーって感慨に浸るような余裕はない(笑)。うれしいけどね。でも、振り返ってる暇はないかな。もっともっとって気持ちがあるし、今が最高でお客さんはこれ以上増えなくていいですって、まったく思ってないから。まだまだ足りない足りない、もっといろんな人に聞いてほしいって、ずっと思ってる途中だから。気づいたら結成してから20年、自分が入ってから10年。なんとかしてーなーっていう(笑)。
奥村:そうだね。それは本当に。世の中に一矢報いたいって気持ちがあるよね。

──そんなwash?が、30周年を迎えたCLUB 251で20周年記念とニューアルバムのリリース記念を兼ねたライブを開催して。
奥村:前のバンドからだと、251には30年出てるからね。河崎との出会いも251だし、オダとよく話すようになったのも251だし。
河崎:wash?にとっては何度もライブをしているホームだし、wash?の音楽には“251の音”が入ってると思うわけ。その音を日本中、世界中に聴いてほしいなと思う。そのぐらいのつもりでやってるから。
奥村:その音で、一矢報いたいんだよね。俺たちはデータを売ってるわけじゃなくて、問うてるものは存在だから。

──ニューアルバムをリリースし、20周年ライブを終えた先には、どんな未来を思い描いていますか?
オダ:『Noise』をまずはいっぱい聴いてほしいなっていうのがあるんですけど、今回久しぶりにちゃんとドラムを叩いてレコーディングしたんですよ。Hi-5のときは曲作りを生ドラムでやって、レコーディングでは全部自分たちで打ち込んでループ化するスタイルだったので。それで今回、本当に久々にレコーディングでドラムを叩いて、すごく楽しかったんですよ。でも、完成してみるともっとこう叩きたいっていう新しい欲求がもう生まれてきているので、その欲求を満たすためにもまた早くレコーディングしたいなって思ってます。
河崎:俺も『Noise』をたくさん聴いてほしいなっていうのが今はすべてで、さっきも話した一矢報いたいという気持ちは音に全部詰めたから、本当にいろんな人に聴いてほしい。その上で、これからもっと開きたいし、広げたいし。

奥村:これは毎回なんだけど、レコーディングが終わった直後は、世界で一番かっこいいのができたって思えるんだよね。でも、1ヶ月も経たないうちにもっとできたなって思う。だから、今はもう完全にもっとできたなって感覚になってる。あそこのニュアンスはもうちょっと入れられただろうとか、もっと攻められただろうって。その思いは次の作品でしか晴らせないから、今は早く次が作りたい。今のwash?は、『Noise』ぐらいは当たり前にできるバンドだと思ってるし。あと、これは河崎と飲んでるときによく話してるんだけど、いつか日比谷野音でワンマンライブができねーかなーって。くたばる前に(笑)。野音には、憧れがあんのよ。俺が憧れた人たちがやった場所だし、そこで見たライブでウォーってなった自分が、その場所でやってみたいなって。それと、ものすごく大事に思ってるのが、どんな状況になっても、どんな環境になっても、今のままの自分でありたいということ。派手なこともやりたいと思いつつ、いつまでもこの“平熱”でいたいというか。河崎が俺に話しかける感じ、オダに俺が話すトーンも、このままでいたい。それが自分のためになると思うし、音楽的な才能も、そういう状態から育まれると思ってるから。それは、すごく願いというか、祈りのように思ってるかな。

<TEXT:大久保和則/PHOTO:大参久人>


NEW RELEASE

2023.07.23RELEASE
New Album“Noise”(アナログ限定盤)

Noise / wash?
TWIG-0010 / ¥5,000(税込)
ライブ会場限定発売

A1 noise
A2 Falling
A3 critical
A4 alternator

B1 がけのうえ
B2 Drop
B3 ワルツ
B4 まちがしんでゆく

wash? are
奥村 大 (Vocal, Guitars, Fuzz)
河崎雅光 (Bass, Trumpet, Chorus, Rhodes, microKORG)
オダタカユキ(Drums, Percussion, Chorus, Dance)

Engineered and Mixed and Mastered by 池田 洋 (hmc studio)
Art direction and design by Shohei Takasaki
Executive Producer 𠮷川華代 (twigrecords)

Live Schedule

2023.07.30 sun 大阪寺田町Fireloop
2023.08.08 tue 下北沢BASEMENTBAR
2023.08.27 sun 下北沢CLUB251
2023.09.01 Fri 稲毛K’s Dream
2023.09.09 Sat 長野伊那GRAMHOUSE
2023.09.17 Sun 名古屋 CLUB ROCK’N’ROLL.
2023.09.18 mon 大阪寺田町Fireloop


http://wash-wash-wash.com/

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