オルブラジオ 見当はずれの徒花しゃべり〜出張版〜vol.4

背伸び論

私は人並みに本を読む。所謂、〝読書家〟や〝本の虫〟と呼ばれるほどには読んでいない。本を読むのが好きか?と問われても「別に…」と答える。なぜなら猛烈に本を読みたい時期とそうでない時期があるからだ。

〝積ん読〟とはよく言ったもので、誰が考えた言葉か知らないが、〝周期〟で本を読む私もまた自宅に未読の本が積まれている。

本を読むメリットを問われると、漢字を覚えられるくらいしかないと思う。頭が良くなるとか知識が身につく、だとか言う奴がいるが詭弁だ。もちろん意図的に知識を身に付けるための読書はできるし、文字を読むだけで色々なことを知れるのは効率がよく手っ取り早い。しかし、知識を得るための本を選定して読むのはつまらないし、なにより、自分を高めるためにはこれを読め!的な意識高い奴ってめっちゃうぜぇ。ほんと黙れよな。

最近はYouTubeなどの動画で学ぼうとする人もいるが、得体の知れないパンピーが喋っている数十分の動画を観るより、著者紹介である程度素性が分かっている本を自分のペースで読み、必要な箇所をかいつまむほうがはやく、情報の信頼性も高いと思っている。

本を読む人間がよく勘違いされがちなのが、買った本を全て読んでいると思われることだ。つまらなくて途中で読むのをやめた本や何が言いたいのかさっぱりわからないという理由でやめた本もある。本を読まない人は、途中でどうせやめてしまうからという理由で本を買わないことが多いように思う。

もったいない。

私は本屋が好きだ。ただ意味もなくぶらついたりする。小説やエッセー、図鑑だけではなく、詩集や写真集、雑誌や漫画なども買う。趣味に使うお金の多くが恐らく書籍に充てられている。

本は著者の知識や考え方が反映された言葉の渦だ。飛び込んで水底に呑まれるように夢中になれる渦と出会えると心の領域がグルグルと拡がる感覚がある。

この世にあれだけの量の本があって、興味がない、または読みきれない本ばかりであるとは到底思えないのだ。出会えていない、というのが正しいのではないか。

あらすじが面白そうだった、装丁や装画が好き、タイトルがイカす、好きなタレントさんが書いた、なんでもいい。本屋に行ったらなにか引っかかった一冊を買ってみて欲しい。

それを家に帰って…

読まなくてもいい。もちろん読むに越したことはないが、そのまま本棚の肥やしになるならなるで上等だ。本の見た目にだって著者や編集者、デザイナーは拘っている。何食わぬ顔でインテリアにしてしまえ。

そういう背伸びをし続ける(見栄を張る)と次第に自宅の本棚に、『心が反応した本棚』ができあがる。すると、ふとそこから一冊を手に取る瞬間があると私は経験から断言できる。何年も前に買った本を読み始めた、ということが何度もあるのだ。

書店でその本を手に取った瞬間から読書はすでに始まっている。

私は高校生の頃、修学旅行で北海道へ行った。札幌や函館、小樽など観光するのに適した都市がたくさんあるにもかかわらず、瀬棚町というど田舎に連れられ、そこで農業体験をした。正気か?修学旅行だぞ?と当時感じたものだ。

今となっては良い思い出だが、まさか修学旅行で大量に貯蓄された牛糞堆肥を見せられるとは思わなかったし、キャベツの苗を植えていく作業を夕暮れまでやらされると思わなかった。かなり本格的だった。妙な生真面目さがある学校であった。

そして、その農業体験のカリキュラムの中に〝屠殺〟があった。

家畜である牛や豚などを人間の生活のために殺すことだ。当たり前だがわれわれが普段食べている肉や魚、野菜は生命であり、〝いただきます〟〝ごちそうさま〟という言葉には大切な意味がある。が、恐らく、普段生きていて食事ができるように加工される前の段階をいちいち想像している人間はほとんどいないだろう。

この体験はニワトリを対象にしたものだったが、都会に住む高校生にとって心理的なハードルは高く、各クラス2名の参加者を募っていたが立候補する者はおらず帰りのHRが長引いた。

これ以上長引かせたくなかったのもあるし、人生で何度もできる体験じゃないという単純な好奇心から私は立候補した。

使うものは軍手とナイフと血抜き用のバケツだけだったと記憶している。

暴れないように膝でニワトリを両脇からしっかりと挟み、長い首を持ち上げて反り返らせる。そうすることで首が張り、首の血管を切りやすいとのことだった。苦しんでしまうから躊躇するな、と農場の職員に口すっぱく言われ、ただでさえ緊張している手に力が入る。各クラスの代表者が横並びになり、合図と共にニワトリの首筋にナイフを入れ掻き切る。思っていたよりも赤黒い血が首から流れ出る。それをバケツの中に落としていく。

この時点でニワトリはまだ絶命していない。ここで膝を緩めると暴れるので、血抜きの最中も、滴る血と自らがいましがた奪おうとしている命を見つめる。

血抜きを終える頃には首は力なく垂れ下がり絶命したことが分かる。よく刑事物のドラマや小説で耳にする〝死後硬直〟というのを体感したのもこの時だった。

そのあとは班ごとに屠殺したニワトリを捌き(かなり臭いがキツかった)、調理して食した。死後硬直が理由かは分からないがかなり硬い肉だったのを憶えている。しかし、残せなかった。

今思えば、あの体験は自分にとって〝背伸び〟だったと思うのだ。

自分が未だ触れたことのない何かに出会うとき、われわれは怖さや面倒くささが先立っている気がする。知らない事に心を動かされたりするのはどうしても体力が要ることをわれわれは知っているからだ。

小学生の頃、クラスに必ず一人はいただろう。誰よりも早く洋楽を聴き始めるやつが。揶揄されがちだが、知らない世界を覗くことに躊躇しないことは美徳である。

未知の世界に触れる時、われわれは背伸びをしている。

私は必ず新しい本を買う時や映画を選ぶ時に少し背伸びをするようにしている。いま世に溢れている多くのものの中には体験する前から〝楽しい〟〝嬉しい〟〝面白い〟が確約されているものがあるように思う。確かに面白くて楽しいことばかりだ。しかし自分がすでに持っている感性で反応する世界に生きているのだから当たり前だろう。今の自分にとっては難しい内容かもしれない、面白いと思えないかもしれない、まったく理解できないかもしれない。しかし、これらを経験した自分はどんな景色を目にし、何を感じているだろうか。その背伸びをした先にある景色を私は見たい。この世界は美しいと聞いても、それが本当かどうかはこの目で確かめるしかないのだから。

OLD BROWN OWL 岩崎弘


OLD BROWN OWL

Vo Gt岩崎弘(イワサキ ヒロシ)
Gt 衣袋航平(イタイ コウヘイ)
Ba 三戸部光(ミトベ ヒカル)
サポート Dr 小林弥央(コバヤシ ミオ)

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7/14(金)下北沢CLUB251
配信Single『マッシュルームプラネット』RELEASE LIVE

【Act】 Pororoca BACKDAV Laugh giraffe!! アマアシ and more…
Op/St 18:00/18:30
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